東京家庭裁判所 昭和40年(家)12089号 審判 1965年12月28日
本国 韓国 住所 東京都
申立人 李正栄(仮名) 外一名
本籍 東京都 住所 申立人両名に同じ
事件本人 三田高二(仮名)
主文
申立人らが事件本人を養子とすることを許可する。
理由
一、申立人らは、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、
(一) 申立人両名は、いずれも韓国人で昭和二〇年(一九四五年)一月二三日婚姻した夫婦であり、その間に女子七人をもうけている。
(二) 事件本人は、戸籍上昭和二六年九月一四日婚姻した夫婦三田三次、同利美の間に昭和三九年二月二六日出生した長男として記載されている日本人であるが、真実は○○興業株式会社(建材業)の常務取締役をしている申立人李正栄が昭和三八年三、四月頃当時前記会社に勤務していた右三田利美と情を通じ、その間に出生した子であつて、申立人夫婦は、その間に女子のみで男子がないところから、昭和三九年五月頃右三田三次、同利美夫婦から事件本人を引き取り、以来監護養育している。
(三) ところが、事件本人はいわゆる推定を受ける嫡出子であつて、事件本人と父である三田三次との間の父子関係を否定するには、嫡出否認の訴によるほかない訳であるが、既に嫡出否認の訴の出訴期間(出生を知つた時から一年)を経過しているため、この訴によることができず、結局事件本人と父である三田三次との間の父子関係を否定することができない。そこで、申立人両名は、正式に事件本人と養子縁組したうえ、事件本人を監護養育したいので、本申立に及んだ
というのである。
二、よつて、審案するに、申立人ら提出の各疎明書類並びに申立人李正栄および申立外三田三次に対する各審問の結果を綜合すると、一の(一)ないし(三)記載の事実をすべて認めることができる。
三、右認定の事実からすると、養親となるべき申立人両名は韓国人であり、養子となるべき事件本人は日本人であつて、本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるので、まずその裁判権および管轄権について考察するに、養子となるべき事件本人は東京に住所を有する日本人であるのみならず、養親となるべき申立人両名は韓国人ではあるが、東京都内に住所を有しているので、日本の裁判所が本件養子縁組について裁判権を有し、当家庭裁判所が管轄権を有することは明らかである。
四、つぎに本件養子縁組の準拠法について考察するに、日本国法例第一九条第一項によると、養子縁組の要件については、各当事者につきその本国法によるべきものであるから、本件養子縁組は、養親たるべき申立人両名については、その本国法たる韓国法、養子たるべき事件本人についてはその本国法たる日本法、がそれぞれ適用されることになる。
五、よつて、本件養子縁組の要件を韓国民法および日本法によつて審査する。
まず、日本民法(同法第七九二条ないし第八一七条)と同様に、韓国民法も養子制度を認めている(同法第八六六条ないし第八八二条)ので、本件養子縁組を成立させることが可能である。
また、養子縁組の成立には、韓国民法によれば、戸籍法の定めるところにより申告することのみが要求され(同法第八七八条)、日本民法の如く、未成年養子縁組が成立するために裁判所の許可(同法第七九八条)を要しない。しかしながら、養子縁組の成立のため裁判所の許可を要するかどうかの問題は、養親たるべき者の側、養子たるべき者の側双方に関する成立要件と解され、養子が日本人である本件養子縁組については、日本民法によつて家庭裁判所の許可が必要であると解され、したがつて当家庭裁判所が本件養子縁組を審査して許可不許可を決することは適法である。
更に、日本民法によれば、養子となる者が一五歳未満であるときは、その法定代理人がこれに代わつて、縁組の承諾をすることになつているが(同法第七九七条)、韓国民法では、養子となる者が一五歳未満であるときは、父母、父母がないときは後見人がこれに代わつて縁組の承諾をすることになつている点では(同法第八六九条)日本民法と同様であるが、その他一般に養子になる者は、父母の同意を得なければならないとされている(同法第八七〇条)。しかしこの養子縁組についての法定代理人等の代諾ないし父母等の同意の問題は、専ら養子となるべき者の側に関する要件と解され、したがつて、養子が日本人である本件養子縁組については、日本民法の定めるところに従うべきであるから、養子となるべき者の法定代理人の代諾のみで足りると解すべく、申立外三田利美の作成にかかる縁組代諾書および申立外三田三次に対する審問の結果により、本件養子縁組について事件本人の法定代理人である申立外三田三次および同三田利美が代諾していることが認められるので、本件養子縁組はこの要件をも充足していることは明らかである。
六、以上の如く、日本民法および韓国民法によつて審査するに、申立人両名が事件本人を養子とすることには何等妨げとなるべき事情はなく、しかも養子縁組の成立は、前記認定した事実に徴し、事件本人の福祉に合致するものと認められるので、本件申立はその理由があるというべく、これを許可することとし、主文のとおり審判する次第である。
(家事審判官 沼辺愛一)